アリスタルコス北方のくぼみ

アリスタルコスが欠けぎわに近い頃、「アリスタルコス北方のくぼみ」を見ることができます。

「写真で見る月面観測」によると直径は約50kmもあり、粘土を親指の腹で軽く押したていどの非常に浅いくぼみと記載されており、その表現がぴったりだと思います。

2023/3/4 μ-180C


「写真で見る月面観測」に「月齢24~25のころにも見られるはずですが、くわしい観測が不足しているようです。皆さんの調査研究をお待ちします」とあります。
2023/8/13は月齢26.1で、ちょうどこの付近を欠けぎわで見ることができました。

2023/8/13 μ-250

下の画像の通り、くぼみの辺りにはウラストンDを通る丸いリッジか段差のようなものがあり、南北方向のリッジで左右に二分されています。
上弦側(満月前)では左側半分が窪んでいるように見えるのですが、この画像(下弦側)では右側が少し暗く見えています。左側はそれほど窪んでいるようには見えない感じです。

上の画像の拡大

2023/7/29には上弦側(満月前)で見ることができました。

2023/7/29 μ-250




「写真で見る月面観測」には、このくぼみとよく似たものとして、プトレマイオス内部にある多数のくぼみが挙げられています。その中で最大の物はLunar100の75番のプトレマイオスBです。
下の画像でも、プトレマイオスB以外に多くの浅いくぼみが見られます。

2015/3/28 μ-250

同書には他にもアルバテグニウスやラカーユ、レギオモンタヌスの内部にも認められるということです。

アルバテグニウス


刷し日記「アルバテグニウスのくぼみ」はこちら

ラカーユ、レギオモンタヌス

ラカーユの内部には複数の小さなくぼみが認められます。レギオモンタヌスはこの画像からは わかりにくいように思います。

2015/3/28 μ-250 上弦側

2023/9/7 μ-250 上弦側

この「アリスタルコス北方のくぼみ」は月面観測のバイブルとして広く知られる「月面ガイドブック」(高橋実著、誠文堂新光社、1974年2月10日発行)や「写真で見る月面観測」(誠文堂新光社、天文ガイド編、1968年8月5日発行)に写真入りで詳しく紹介されています。

これには「新発見のくぼみ」というタイトルで「木星観測で知られる広島の佐藤健氏がこのくぼみを見つけた」とあり、写真とともに詳しい解説が掲載されています。

私も子供の頃から馴染みのある地形でした。また天文雑誌に写真を投稿していた頃、この付近の画像も掲載していただきました。1991年のことです。自身のコメントとして、このくぼみ(ソウサ)についても触れていました。

このように「アリスタルコス北方のくぼみ」は、日本の月愛好家にはよく知られた地形です。


ところが2年ほど前、LPODのアーカイブ(2013年分)を見ていると「海外の方がこの地形を発見した」というようなことが書かれていました。その方のサイトを見ると「2012年に見つけた」とのことです。moon wikiにもその名称が記載されています。

かなりモヤモヤした気持ちになりましたが、その方も既知の地形ではないか?と色々手を尽くされたようなので仕方のないことなのでしょう。もちろんネットでも検索されたそうです。

ただ半世紀以上前に日本人が発見し、当時から日本ではよく知られていた、ということはネットに残しておきたいので、2023/8/15付の撮影日記などにその旨を英語で記載しました。


さて、昨年末のことですが、ネットを見ていると佐藤健氏ご自身がこの件について書かれている記事を見かけました。花山星空ネットワークの会報「あすとろん」39号(2017年)のP18(サムネイルでは20)です。
この件以外にも この地形を見つけた時のエピソードや、実は先に見つけた人がいることなど大変興味深い内容です。

花山星空ネットワーク
「あすとろん」39号

また佐藤健氏の発見について、BAA(英国天文協会)の古い出版物にも記録が残されているとのことで、とりあえずほっとしました。

撮影日記 アリスタルコス北方のくぼみ