先日、フラマウロ丘陵について書きましたが、その近くで十字形が見えるというmoon wikiの記載を見かけました。とても面白そうなので調べてみました。

これはカーチス・クロス(Curtiss Cross,カーティス・クロス?)と呼ばれるもので、Sky & Telescope誌の1958年6月号に掲載されました。
私が生まれる前の古い雑誌ですが、Sky & Telescope のアーカイブDVDを持っているので読むことができました。

それによると「1956年11月26日、米国ニューメキシコ州アラモゴードのロバート E.カーチスがフラマウロ北西に十字架があることに気付いた」というものです。「40cmニュートン式反射望遠鏡に映画用カメラを取り付けて撮影した映像から見つけた」とのことです。

その時の画像が掲載されてますが、解像度は低いものの確かに小さな十字架のような形が見えます。しかも横棒は少し右上がりで、ちょうど南十字のような感じです。

古いとはいえ出版物のスクリーンショットをそのまま掲載するのは気が引けるので、ネット上を探してみたら「Astronomical Society of Southern Africa」というサイトにアップされていたのでリンクしておきます。ページの下のほうの「Hunting Spectres on the Moon」の画像がSky & Telescopeの記事の全てです。

moon wikiには「LTVTのページを参照」とのことですが、リンク切れになっているのでWEBアーカイブをリンクしました。

ネットでCurtiss Crossを検索しても情報量は少なく、Cloudy Nightsの投稿がいくつか見つかるくらいです。


さて、十字架があるとされる場所ですが、フラマウロの北西部のフラマウロζ(ゼータ)と呼ばれる領域です。ここには南北に直線状に伸びる山脈(?)のようなものがあり、これが十字架の縦棒であることは間違いなさそうです。

問題は横棒で、Lac map(76)やLROCの画像を見てもそれらしいものはなく、いくつかの小クレーターが右上がりに並んでいる感じがして、どうやらこの並びが怪しそうです。

カーチス・クロスはフラマウロが日没を迎える頃に見ることが出来るようです。フラマウロはコペルニクスの南にありますから、下弦を過ぎてコペルニクスが隠れる少し前くらいが目安でしょうか。
1956年にカーチスが撮影した画像には時刻の記載がありませんので、同じ太陽高度になるタイミングはわかりません。

7月12日の明け方がチャンスだったので楽しみにしていました。その結果が下の画像です。
一番上がコペルニクス、南に下がってフラマウロがあり、白い円内がカーチス・クロスがあるフラマウロζ(ゼータ)です。

2023/7/12 μ-250

下の画像はフラマウロζの拡大です。十字架の縦棒は明るく見えていますが、右上がりの横棒の場所には複雑な地形が並んでいて、とても直線状には見えません。

2023/7/12 μ-250

こういった現象の場合、太陽高度が変化すると見え方も変わるのですが、さすがにこれだけ複雑な地形が直線状に見えるのは考えにくいように思います。

カーチスの画像は今から70年近く前に撮影されたもので、現在から考えるとかなり解像度の低い物です。それで今回の画像にPhotoshopのガウスぼかしをかけて、画像のサイズを小さくしてみました。
すると何となくカーチスの画像のように見える気がします。

2023/7/12 μ-250

今回はμ-250だけで撮影しましたが、解像度を下げるという点からは小さめの望遠鏡が良いのかもしれません。
ツイッターの過去の投稿を探してみると、2022年10月19日の月が今回に近い欠け具合です。
7.6cmの屈折にミラーレス1眼を付けて月の全景を一枚撮りしています。気流はあまり良くないですね。
その画像からの切り取りです。

2022/10/19 FC-76DS

まだ少し早い時刻だったのかもしれませんが、なかなかいい感じです。
この画像も少しガウスぼかしをかけて明るくしてみました。



「虹の入江の月乙女」や「月面X」も解像度が上がるにつれて、どんどんイメージから懸け離れていってしまいます。カーチス・クロスもあまり大きくない望遠鏡で眺めるのが良いのかもしれませんね。

この日(2022/10/19)の月の全景が下の画像です。
またこの月齢の頃になったら注意して見てみたいと思います。

2022/10/19 FC-76DS