月面A LunarA
満月の少し前、月の西縁に見えるグリマルディの近くにアルファベットの「A」のような地形が見えることがあります。最近は「月面X」と同様に「月面A」と呼ばれているようですが、この現象について「月面ガイドブック」(誠文堂新光社 高橋実著)に「暗やみに浮かぶA字形」として詳しい記述があります。
同書によると、1959年4月21日に著者の高橋実氏が見つけたそうです。月面余経度が71.3度の頃に現れますが、この時刻を中心に前後30分くらい余裕をみておくのが賢明とのことです。
月面Aは月面Xと違って月の縁のほうで起こりますから月の秤動(月の首振り運動)の影響を大きく受けます。この付近がこちら側を向いているときはA字形は幅広くて見やすくなりますが、遠い側に向いているときは見えにくくなります。ですから月面Xとは違って起こる日時だけでなく、秤動の状況も気になるところです。
「A」が正立して見えるように、画像は南を上にしています。
月面Aの変化
下の画像は2016/10/14の月面Aの連続画像です。それぞれの画像には撮影時刻と月面余経度、リチオリにおける太陽高度を記載しました。またピークと思われる時刻(21時08分)とそれぞれの画像の撮影時刻の差を経過時間として記載しました。一番下に9枚の画像をアニメーションにして掲載しています。
(2016.10.14 タカハシミューロン250 + ASI 120MM-S + RG610 + 1.5倍バロー)
20時16分 月面余経度 70.91° 太陽高度 -3.43° 経過時間 -0h52m | |
20時37分 月面余経度 71.09° 太陽高度 -3.26° 経過時間 -0h31m | |
20時52分 月面余経度 71.21° 太陽高度 -3.13° 経過時間 -0h16m | |
21時08分 月面余経度 71.36° 太陽高度 -2.99° 経過時間 0h00m | |
21時23分 月面余経度 71.48° 太陽高度 -2.87° 経過時間 +0h15m | |
21時48分 月面余経度 71.69° 太陽高度 -2.66° 経過時間 +0h40m | |
22時12分 月面余経度 71.89° 太陽高度 -2.46° 経過時間 +1h04m | |
22時34分 月面余経度 72.09° 太陽高度 -2.27° 経過時間 +1h26m | |
23時05分 月面余経度 72.33° 太陽高度 -2.01° 経過時間 +1h 57m | |
アニメーション |
月面Aの正体
月面Aはリチオリの北にあるリチオリCクレーターの一部と、リチオリCの南(画像では上)にある三角形の台地の外壁が太陽光に照らされて輝いている姿です。この付近が夜明けを迎える頃、周囲はまだ真っ暗ですがこの地形の高い所にだけ光が当たりはじめ、それがたまたまAのような形に見えます。下の画像の線で囲んだ部分です。
かつてこの月面Aのクレーターは「インガルス」と呼ばれていたようで、「月面ガイドブック」にもそのように記述されています。しかし現在は「インガルス」は月の裏側のクレーターに名付けられ、この月面AのクレーターはリチオリCと呼ばれています。
リチオリCは二重のクレーターで外側がリチオリC、内側がリチオリCAです。
秤動の影響
月面Aは月の西縁にあるため、秤動(月の首振り運動)の影響を大きく受けます。この地域が地球側に向いている時は「A」は幅広くて見やすく、反対側を向いている時は細長くて見えにくくなります。この画像の中で最も大きなクレーターはヘヴェリウスですが、ヘヴェリウスの幅を比べてみても秤動の影響がよく分かります。
秤動が良い時 2016.10.14 | 秤動が悪い時 2017.3.11 |
月面Xと月面Aの比較
同じ光学系で撮影した月面Xと月面Aの画像を並べてみました。月面AはXに比べるとかなり小さいことがわかります。(月の遠近や秤動の影響でそれぞれの大きさや形は多少変化します。)
また月面Aは満月前の明るい月のすぐそばに現れるので、Xよりも少し分かりにくいように思います。
このページの画像は「A」の文字が分かりやすいように、南を上に掲載しています。